予言
ある朝、井原壮介は、なにか気がかりな夢から目を覚ますと、
周りが変わっていることに次第に気が付いた。
部屋はいつものように、自分の部屋である。
しかし、朝起きて一番目に窓のカーテンを開けると、
隣のマンションの屋上に、
星条旗が高々とたなびいているのが目に入った。
「おや?あれはなんだ、、、」
そう思いながら、
テレビのスイッチをつけた壮介に、二度目の衝撃が走った。
NHKのアナウンサーが英語でニュースを読み上げているのだ。
「どっっ、、したんだぁああ〜〜」
チャンネルをガチャガチャ変えたが、
どの局もみなそうだった。
英語で、喋っている。
壮介は不安になった。
のどがカラカラになった。
「おいおい、、、」
自分のほっぺをたたきながら、
玄関に行って新聞をとりあげた壮介を、
さらに三度目の衝撃が襲う。
新聞も英語であった。
「一体、どうなったんだ〜〜〜」
壮介は英語は苦手だ。
しかし、どうあっても事の次第を、
知らなければならない。
自分を落ち着かせ、
新聞をゆっくりと、読むと、
そこには英語でこう書かれていた。
「キョウカラ ニホンコクミンハ エイゴヲ
ハナサナケレバナラナイ、、、」
「えっ〜〜〜俺そんなこと知らないぞ。」
なにか悪い夢でも見ているのか、、、
そうだ!会社に電話しよう、
と、思いついた壮介は会社に電話をかけた。
プルルン、、プルルン、、、
呼び出し音が聞こえる。
そうだわな、まだ七時半。
ダレもいるわけないか、、、
そう、思って受話器をおこうとした、
壮介の耳に、受話器の向こうから、
録音が聞こえた。
「ハロー。アイムソリー、、、、」
なんと、英語で喋っている!!
一体、いったいどうなったんだ〜〜〜
どうしたらいいんだ〜〜〜
その時、ドアを叩く音がした。
あっ、人だ、、、
壮介は、喜んで玄関に走って行き、
勢いよくドアを開けた。
そこには、軍服をきた日本の兵隊が立っていた。
「○○××、、、、」
その兵隊はブツブツ言うと、
いきなり壮介の腕をつかみ、
引っ張り出そうとした。
「おい、おい何をするんだ〜〜〜!!」
そう、叫んだ壮介の声を聞きつけて、
さらに何人かの兵隊が飛んで来て、
彼の腕を掴んで、連れていこうとする。
壮介はいちはやく危険を察して、
ドアを閉めると、鍵をかけ、
慌てて、
ベランダに出て、下を見た。
下にも「敵」はいる。
壮介は、かがみこみながら、
ゆっくりと、
隣のベランダにうつり、
隠れる。
心臓は早鐘のようになる、、、
早く!はやく、、、はやく
思うほど、
手はジトジト汗ばみ、
のどはカラカラ。
何とか、なんとかここから逃げなければ。
彼の危険本能が知らせる。
しばらくして、敵はあきらめたのか、
静かになった。
さらに、時間をかけて、
そっ〜〜と、樋をつたって、下に降りると、
もう、そこは昨日までの、町並みとは別世界。
店の看板も、
電柱もみんな
え・い・ご。
キョロキョロ周りを見渡しながら、壮介は、
どうなったのか、
知りたかった。
その壮介の疑問を解決してくれたのは、
ゴミ箱にまるまって棄てられていた、
一枚のビラだった。
それには、日本語でこう書かれていた。
「明日○月、○日から、日本国民は、
すべて英語を喋ることを義務とする。
その理由は、
吾が、日本国軍隊が、多国籍軍とともに
戦うとき、言葉が通じないと不便なため、
日常的に英語を喋ることで、これを克服する。
なお、これに逆らう者は、
終身刑である。
日本国総理大臣、
ギョージ・ダッシュ」
壮介は我と我が目を疑った。
しかし、何回読んでも、ビラの内容は変わらない。
「俺、何をしていたんだ、、、
知らなかった、、
こんなこと、、、
いつのまに決まったんだ、、、」
ハッと気がついた壮介の目の先に、
ニヤリと笑う
日本国兵隊の姿があった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
これは、
私が以前(1993年)友人と作っていた
同人誌の中で、
「あそび」で書いた短編を
今日、ここで手直ししたものです。
あの時、私たちは笑いながら、
「まるで、カフカの変身みたいだね〜〜」
なんて言って、批評しあってました。
あれから、10年後。
自衛隊は多国籍軍の傘下に入り、
行動、活動を共にするという、、、
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