たったひとつの スマートな抵抗
大池純子は、
自分の頭の中に巣くっている物の正体を、
今、
初めて知った。
それは、
ウィルスだったのだ。
宿主の脳細胞を栄養源として、
どんどん広がっていき、
ついには、宿主の脳を、
隙間だらけのスポンジのようにする、
そんなウィルスだったのだ。
思えば、純子とこのウィルス、
名前をセンロウという。
この物との付き合いは長い。
純子は孤独であった。
都会の一人暮らし。
信じる価値観は何もない。
東ドイツが崩壊した。
その直後のベルリンを訪れて、
純子は驚いた。
象徴とされたブランデンブルグの門のまえに、
旧ソ連の人たちがなぜか、観光客を相手に、
ロシア人形を売っている姿があちこちで見られた。
その時だった。
純子の頭の中で、
「ねぇ、、、社会主義ってイヤだろ。
日本はアメリカと友達でヨカッタね。」
と、言う声なき声が聞こえてきた。
驚いた純子に、
そのものは言う。
自分は無害なエイリアンで、
何も悪いことはしないから安心しろと。
ひとりぼっちの淋しい純子は、
初めは違和感があったものの、
自分の頭の中に巣くうエイリアン、
「ジミンセイ」からやってきた、センロウに
次第に友情を感じてきた。
センロウが言うには、
自分たちの種族は、至る所で、
「人の頭につき、宿主の脳から、ほんのちょっと、
栄養をとり、そのお返しに、宿主の快楽中枢の掃除をする」
と、いう事であった。
なるほど、
センロウが巣くってから、
純子はなにやら毎日が安心であった。
よその国で戦争が起きても、
気にならなかった。
自分の隣の席の同僚が、次の日から会社に来なくなっても、
「あ〜〜リストラされたんだ。可哀想に。」
と、思うだけで、自分の生活は快適であった。
次第に、
しだいに
純子は、考えることをしなくなった。
と、いうより
自分で考えることがどんなことか、
忘れてしまった。
ある日、
純子は新聞を見て驚いた。
そこには、
「日本が遠い彼方の国の戦争に参加する」
という物だった。
さすがに純子は驚いて、
センロウを呼び出した。
頭の中のその物は、機嫌よく出てくると、
純子にこういった。
「やぁ、、、純子。
有り難う。我がシミンセイの仲間たちが
どんどん増えたおかげで、
今や、この国の人間の頭の中は、
すべてこちらの物なんだよ。
感動した。
有り難う。」
その時、純子は、
まだ少し残っている自分の理性の中で、
「これは大変だ。」
と思った。
このままでは、この国は、
ジミンセイのエイリアンたちに乗っ取られる。
もうすでに、
あちこちで増えまくっている。
自分の理性も、もうそろそろ、、、
あ〜〜〜
まだ、この理性があるうちに、
何かしなければ。
これ以上、
彼らを増やさない方法を、、、
そうだ、
あれだ。
あれしかない。
たったひとつのスマートな方法。
それは、
、、、、、、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「たったひとつの冴えたやりかた」
ご存じですか?
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの名作です。
一人の優しい少女とエイリアンとの友情を描いた
涙、なみだの
感動の作品です。
主人公の少女が宇宙の彼方、
孤独のなかで、エイリアンと知り合い、
次第に友情を育みながら、
最後は、
そのエイリアンの悲しい習性がために、
自ら「死」を選ぶことで、
人類を、宇宙を救うという話です。
さて、この格調高い物語りは物語として、
私は、私たちの頭も
どこかの誰か、
あるいは、何かに乗っ取られていくのではないか、、、
と、危惧する昨今です。
気がついたら、
取り返しがつかないような事態にならないために。
今、
何ができるか。
そう、
私たちにできる
たったひとつのスマートな抵抗は、
「選挙」
です。
まちがっても
まちがっても、
みんなが
「選挙にいかない」
事だけはないように、
願わずにはいられません。
そして、
本当に、ほんとうに
みんなが納得できるように、
選ばれた政治家が
国を動かしてくれることを、
心より祈ります。
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コメント
「無関心党」というサイトがあります。
http://www.hirake.org/mukan/
こちらの方がユーモアを交えながらも理詰めで、僕には理解しやすいのですが。
瀬戸さんの「口説き」には思わず涙腺を抱きしめてしまいました。
(あーあ、ハズカシィ)
投稿: 聞きかじり | 2004.06.19 15:20
聞きかじりさん。
おはようございます。
コメント有り難うございます。
ひできさんから頂いたコメントにも書いたのですが、
オフ会、盛り上がったみたいですね。
ネットを通して、新しい人との出会い、世界は広がりますね、、、
楽しく活用していきたいものです。
あっ、そうそう。
ついでに、先日のトラックバックしていただいた記事のこと。
その後、どんな風に書かれるのか、とても楽しみにしています。
お忙しいとは思いますが、続き待っています。
さて、ご紹介いただいたサイト、訪問いたしました。
ユニークで楽しく拝見を致しました。
有り難うございます。
さてさて、私の文。
いつも、家族に「こんな下手なパロディー書くな。」と言われています。
作者に悪い、、、と叱られています。(^^;
つたない文ですが、
これからも、お付き合いください。
では、お元気で。
投稿: せとともこ | 2004.06.20 08:50
はじめまして、くりおねと申します。
トラックバックをありがとうございました。
「いつの間にか乗っ取られる」ことだけは何としても避けたい。そのためにできることをやっておきたい。そういう思いで「そうだ、選挙、行こう」と書きました。
あきらめる前に、たったひとつでもできることをやろうよ、と、言い続けていきたいです。
投稿: くりおね | 2004.06.21 00:08
以前からトラバなどさせて頂いておりました
heteheeteと申します。
どうぞよろしくお願いします。
「たったひとつの冴えたやりかた」
存じませんでしたが、瀬戸さんのパロディー
興味深く読ませて頂きました。
原作も図書館で探して読んでみたいと思います。
投稿: heteheete | 2004.06.21 16:48
くりおねさん。
heteheeteさん。
おはようございます。
コメントありがとうございます。
もうすぐ、参議院選挙。
私たちの意思、願いを、
しっかりと代弁してくれる方を選ばなきゃ〜〜〜
と思っています。
決して、
「サギ院」じゃないように、、、ねぇ。
くりおねさん。
オフ会、随分盛り上がったようで、ヨカッタですね、、
今度は女性だけで、
どこか温泉でやりたいですね、、、
heteheeteさん。
トラックバック、有り難うございます。
私は、いつもパンパン、勝手に貼らせていただいて、
コメントなしでゴメンナサイね、、、
こんな不調法な私ですが、よろしくお願いいたします。
なお、
「たったひとつの冴えたやり方」
是非、ご覧ください。
短編だから、すぐに読めます。
「なみだ、なみだ」はチ〜〜〜ト、
オーバ〜〜〜かなぁ?
投稿: せとともこ | 2004.06.22 10:35