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2004.07.24

くもの糸

 ある日のことでございます。
 お釈迦様は極楽のはす池のふちを、ひとりぶらぶらお歩きになっていらっしゃいました。
 池の中に咲いているはすの花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色のずいからは、なんともいえないよいにおいが、たえまなくあたりへあふれております。
 極楽はちょうど朝なのでございましょう。
お釈迦様は、池の前にたたずまれました。
その池は「今」の池でございます。
極楽には、「過去」「今」「未来」の池がございます。
ふと、池の底を覗いてみますと、
「今」を生きている人々の様子がはっきりと見えます。
生まれたての嬰児、
もう、こちらにやってくるばかりの老人、
そして、笑っている人、泣いている人、
その様はじつにイロイロでございます。
名前はわかりませぬが、一人の男がお目にとまりました。
この男は人のうえに立っているようでございます。
しかし、驚いたことに、この男の周りは、くもの糸で
ビシビシに絡まっている、いろんな人の
嘆きや哀しみが渦巻いているではありませんか。
男が、吐き出したその息が、
「法」という言葉になって、
多くの人たちをからめ取っているようでございます。
お釈迦様は、ため息をつかれて、
この池から離れようと致しました。
と、
歩きかけたとき、思い出されたのでございます。
「あの男は、以前、別れわかれになった親子を救ったことがあった。
本心がどこにあるかは、わたくしもわからぬが、
一つ、あの男を、迷いから救い出そう」
そう、仰ると、蓮の花についていた、極楽の蜘蛛を、
タラリと、池の底に下ろされました。
極楽の蜘蛛は、
スルスルと銀色の糸をたらして、
男の耳元にまで、おりて参りました。
「これ、それ以上、人を泣かすでないぞ、、、
迷いの徒よ。」
と、極楽の蜘蛛は男に囁き、法を説きました。
しかし、
男の耳には聞こえませんでした。
男が見ているものは、別の大きな国、
男の聞いているのは、金持ちの声でありました。
譬え、極楽の蜘蛛でございましても、
届かなかったようでございます。
男は、
からめとった人々の嘆きを聞きながら、
「どうして、そんなに泣くんだい?
サッパリ、わからない。
泣きやむ特効薬はないからな、、、
人生いろいろさぁ」と、言って
笑っておりました。

極楽の蜘蛛は、
スルスルと上に上がってきました。
銀色の糸はお日様の光りに輝き、それはきれいでございました。

帰ってきた、蜘蛛を、また蓮の上にソッとおかれて、
お釈迦様は、
また、お散歩の続きをなさいました。
もう、
「未来の池」には、見向きもなさいませんでした。
しかし極楽のはす池は、少しもそんなことにはとんちゃくいたしません。
 その玉のような白い花は、お釈迦様のおみ足のまわりに、ゆらゆら うてなを動かして、そのまん中にある金色のずいからは、なんともいえない良いにおいが、絶え間なく あたりにあふれております。
 極楽ももう昼に近くなったのでございましょう。
 
(芥川龍之介、くもの糸、参照)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今日、7月24日は、
芥川龍之介の命日です。

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コメント

そうですね、芥川龍之介の命日・・・
私のメアドのdoragonは何を隠そう、芥川龍之介から頂きました。
大好きなんです、この人。
だれもいないんですよ、語る人が。
また遊びに来ます!

投稿: コングBA | 2004.07.24 14:42

なんどもすみません・・
この創作、面白かったです。その感想を書き忘れてました。お上手でいらっしゃいます。
お釈迦様も現状をご覧になられてさぞかし苦笑されていることでしょう。

投稿: コングBA | 2004.07.24 14:47

いやーーーびっくり!驚いたの何の。久しぶりに瀬戸さんのところに、トラバしようかなと、ふと今日の記事を見ると。。。「蜘蛛の糸」。

トラバしたのは、まさに今日、教室で子どもが書いた創作です。

なにか、糸、意図、つながり?

投稿: ぶんぶんちゃん | 2004.07.24 22:34

コングBA さん。
ぶんぶんちゃん。
コメント有り難うございます。

コングBA さん。
芥川、お好きですか???
私も好きです。
あの研ぎ澄まされた感性と、
どうしようもなく「人間的」なそのアンバランスが、
あの顔から伺えます。
「真実」に対して決して妥協をしなかったのでしょうね、、、
また、いろいろお教えください。
これからもよろしくお願いいたします。

ぶんぶんちゃん。
カワイイ、作文をいつも紹介して頂いて有り難うございます。
「言葉」に対して、いつも真摯な、ぶんぶんちゃんと、「糸」で結ばれていると(?)思うと、嬉しくなります。
また、子どもたちの作品や、考えていること、教えてくださいね、、、
では、また。
暑くなって、もう うだるようなこの夏。
お元気でお過ごしくださいね。

投稿: せとともこ | 2004.07.26 13:35

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受信: 2004.07.24 22:30

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