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2006.10.02

美しくあいまいな日本の私

これからの季節。
日本は本当に「美しい国」になります。
紅葉の時季を迎えるのです。
万葉の昔から人々は、豊かな四季に恵まれた香しい自然を愛し、その思いを歌にしたためてきました。
額田王は、秋の色づく山々を眺めながら何をか思ったのでしょうか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「冬ごもり 春さり来れば 鳴かざりし 鳥も来鳴きぬ 咲かざりし 花も咲けれど 山を茂み 入りても取らず 草深み 取りても見ず 秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてそしのふ 青きをば 置きてそ嘆く そこし恨めし 秋山われは」

意味は次のようなものです。
「春は鳥もさえずり花も咲くが、山に入ったり手に取ってじかに見られないが、秋はもみじしたものを手にとっては美しいと思い、青いものはそのまま置いて嘆息する。そこが恨めしいが、私は秋山が優れていると思う。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夕焼けと共に金色に輝く紅葉は、
古今集・新古今とさらに詠まれ、俳句の世界へと繋がります。
また禅の世界観・死生観と秋の風情が相俟つことは言うまでもありません。
「春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪冴えて すずしかりけり」
と、道元禅師は謳いました。
そして、この歌をさらに有名にしたのは川端康成です。
「美しい日本の私」と題してノーベル賞受賞記念講演で引用したのです。
作家の魂を揺さぶらずにはをれない「美しい自然と日本人の伝統的な美意識」を川端は述べました。
しかし、
道元禅師は、上の歌に「本来の面目」と言う題を与えています。
つまり、人間の関知しないところで「生」は生まれ、営まれ、そして朽ちていく。
そこになんの計らいがあろうか、いやない。
という事でしょうか?
変わりゆく自然は確かに美しい。
しかし、美しいのは自然ではなく受け取る人間、「本来の面目=そのものの霊性」であると言っているのではと思います。
さらに忘れていけないのは、朽ちていくものの中にも「美」があることを教えています。
「無為自然」言うなれば全てをよしと受け止めることこそ「本来の面目」なのです。
川端は自らの文学を禅に重ねた。
が、
本当の意味で、真剣に人に重ねることはしないがゆえに、あの抜けるような儚い人生が横たわっていたのかもしれないと私は思います。
一方、同じノーベル賞受賞記念講演で大江健三郎は「あいまいな日本の私」と言うタイトルで以下のように述べました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「開国以来百二十年の近代化に続く現在の日本は根本的に、曖昧さ(ambigunity)の二極に引き裂かれている、と私は観察しています。のみならず、その曖昧さに深い傷のようなしるしを刻まれた小説家として、私自身が生きているのでもあります。国家と人間をともに引き裂くほど強く鋭いこの曖昧さは、日本と日本人の上に多様なかたちで表面化しています。 日本の近代化は、ひたすら西欧に倣うという方向ずけのものでした。しかし日本はアジアに位置しており、日本人は伝統的な文化を確固として守り続けもしました。その曖昧な進み行きは、アジアにおける侵略者の役割に彼自身を追い込みました。また西欧に向けて全面的に開かれていたはずの近代の日本文化は、それでいて西欧側にはいつまでも理解不能の、また少なくとも理解を渋滞させる暗部を残し続けました。さらにアジアにおいて、日本は政治的のみならず、社会的、文化的にも孤立することになったのでした。・・・
(略)
小説家である自分の仕事が、言葉によって表現するものと、その受容者とを、個人の、また時代の痛苦からともに回復させ、それぞれの魂の傷を癒すものとなることを願っています。日本人としての曖昧さに引き裂かれている、と私は言いましたが、その痛みと傷から癒され回復することを何より求めて、私は文学的な努力を続けてきました。それは、日本語を共有する同胞たちへの、同じ方向づけの祈念を表現する作業でもありました。・・・
 そして私は・・・・この信条にのっとって、二十世紀がテクノロジーと交通の怪物的な発展のうちに積み重ねた被害を、できるものなら、ひ弱い私自らの身をもって、鈍痛で受け止め、特に世界の周辺にある者として、そこから展望しうる、人類の全体の癒やしと和解に、どのようにデイーセントかつユマニスト的な貢献がなしうるものかを、探りたいと願っているのです」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして大江さんは今、憲法を守るために「九条の会」の呼びかけ人でもあります。

ところで、「美しい国」と声高に叫びながら、その内容は「あいまい」とされる我らが総理。
さてさて、国民をどこへ導いてくれるのでしょうか?
「不況の長いドンゾコを抜けると戦争国家であった」と言うのはゴメンです。

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コメント

> 管理人様

突然のコメント失礼いたします。
拙僧、道元禅師を開祖と仰ぐ日本曹洞宗の僧侶にして、御縁を得て道元禅師の研究をしているものでございます。

さて、この「本来の面目」の御解釈について、気になる点がありましたので、卑見を申し上げます。まず、「人間の関知しないところで「生」は生まれ、営まれ、そして朽ちていく。そこになんの計らいがあろうか、いやない。」につきましては、まず仰るとおりであろうかと思います。我々の「知」は、我々自身の経験に対して、あまりに範囲が狭すぎます。

そこで、「朽ちていくものの中にも「美」があることを教えています。「無為自然」言うなれば全てをよしと受け止めることこそ「本来の面目」なのです。」ということですが、こちらはやや表現に問題があろうかと思います。まず、「無為自然」は、老荘思想的な表現であり、道元禅師は老荘思想に真実はないとして、言葉を極めて非難しています。それは、『正法眼蔵』「四禅比丘」巻などから明らかです。

そして、「全てをよしと受け止める」ということは、この世に満ちる暴力や、差別などをも肯定することになり、それは道元禅師の意図するところではありません。それは、『正法眼蔵』「礼拝得髄」巻などで、社会に於ける女人差別を徹底批判することからも明らかです。

以上のことから、この「全てをよしと受け止める」ということではなくて、「全てがよしとなるように、生活全般を向上させていく」というのが道元禅師の真意に近いかと思います。また、「全てが良い世界」とはあくまでも自分自身の問題であって、他人に強制したり、共感してもらったりするようなものでもありません。

などなど、いきなりの偉そうなコメントで、恐縮ですが、これまでも曹洞宗が差別を助長するのに、以上のような解釈が用いられたことがあったため、その反省にしたがって一言申し上げました。おじゃまであれば削除してください。

投稿: tenjin95 | 2006.10.02 18:19

tenjin95 さん。
こんにちは。
コメントありがとうございます。
とても蘊蓄深い内容のコメントを頂き、嬉しく思います。

今回の記事は、そもそも道元禅師その人についてと言うより川端さんに対しての思いを書きました。
また「無為自然」につきましては私も老荘思想であることは存じていますが、「美しい国」への危惧と言う内容で書きましたので、
確かにご指摘のように「半可通」の解釈・大急ぎの乱暴な解釈であったと羞じております。
さらに「全てをよし」とするところも、まさに仰るとおりと存じます。
実は、このところ座骨神経痛で「痛いよ、、痛いよ」と泣いている自分があって、そう言う自分への自戒を込めて何事もドーーンと「全てを受け止めよ」と言う思いだったのです。
が、ご指摘のとおりと思います。
広く・深く・そして伸びやかに見て参りたいと言う願いを新たに、
襟を正しています。
本当に温かいご指摘をありがとうございました。
さて、tenjin95 さんのブログも拝見させていただきました。
私も禅には興味を持っておりますので、またお教え頂こうと楽しみにしています。

投稿: せとともこ | 2006.10.02 18:39

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