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2007.10.25

学力テスト結果から、具象と抽象について

学力調査の結果が出て話題になっています。
この問題、学校間格差や親の経済格差が子に続く格差の再生産についての考察や、いろんな所から切り込む必要があります。
結果の分析はおいおいにしていきます。
それにしても子どもたちの学力とは何か?
今更ながら考えさせられます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
小学校算数。基礎のA問題。
底辺が4センチ、高さ6センチの平行四辺形の面積については96・0%の児童が正答。

活用のB問題。
地図に示された平行四辺形と正方形の公園の広さを比べる設問では、正答率が18・2%と激減。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

紙の上での問題、公式通りの問題は答えることが出来るが、
応用問題になると何がなにやらサッパリなのか???
つまり回線がつながっていないのでしょうか???
ねぇ〜〜〜〜
ううう〜〜〜ん。
これは由々しき問題です。

以前友人から聞いた話。
お嬢ちゃんが小学校一年のとき。
先生が「アキラ君が鉛筆を5本持っていました。お母さんが2本買ってくれました。合せて何本?」という問題を読んだら、クラスは騒然。
「アキラ君ってだぁれ???」
「えっ、どこにいるの???」
と。

おいおい。
そうじゃないだろう。
と、大人は思うかもしれませんが子どもにとっては一大事。

そう言えば、オハジキでは計算出来る子が、果物の足し算はできないと言ってたお母さんもいらっしゃいました。
りんごとみかんを合せたらいくつになるか、、、というよりはどんな味のジュースが出来るか?と悩むようです。
そう言えばひっかけナゾナゾにもありましたよね。
「ここに3束お花があります。後から2束買いました。合せてなん束?」
「そりゃ、5束でしょ」
「ブッ====合せてひと束にしました。」
なぁんて。

こんな漫才みたいなことを真剣に悩むのが小学生。
実はこれはとても重要です。
足し算の本質にズバリ肉薄する問題なのです。
具象から抽象への過程は本当に難しい。
小学校の算数の中で一番むつかしいのは「分数」「割合」。
「分数」には「量分数」と「割合分数」があります。
たとえば分かりやすく例をあげます。
「プールの水1/2リットルと、プールの水1/2」
この二つは両方とも1/2と表記されますが、後ろに名数があるか、ないかで意味は全く違います。
1/2リットルは0,5リットルのことです。プールにどれだけの水が入っていようと同じです。これは量分数と呼ばれます。
しかし、プールの水1/2となると、プール全体にどれだけの水がはいっているかで違ってきます。すなわち
プールの水を1とした時の割合を分数であらわしています。
学校教育の中ではこの二つが区別される事なく出てくるので子どもたちは混乱します。
算数が苦手と思ってくる子どもたちがこの頃から増えてきます。
また「割合」は「内包量」といって2数以上をそのままは足せません(そのまま足せるものを外延量)。
この二つの違いもきっちりと教わる事がないので、子どもたちはますます混迷しているようです。

以前、小学校六年生に教えていた時の面白い話を紹介します。

「みんな、10%の食塩水が100gここにあります。そして、こっちにも10%の食塩水100gあります。合わせると何パーセントの食塩水ができる?」
「20%」みんな大きな声でいいます。
「んんん。じゃ、ここに時速50キロの自動車が2台あります。この二つをひもでひっぱると速さは?」
「50キロ」とみんな正解をいいます。
「そうだね。100キロじゃないよね。
数字にはね、、、」
と私は、子どもたちに内包量、外延量の話、その考え方、答え方を教えます。
また、ジュースを作らせて、「濃さ」の勉強を実際にやります。
そのあとで
「みんな、10%の食塩水が100gここにあります。そして、こっちにも10%の食塩水100gあります。合わせると何グラム?」
「100g」 みんな大きな声で張り切って言います。
「、、、」

笑い話のような勉強をして思った事は、「ほとんどの子どもたちは具体的な事象は理解できる。抽象になると思考がついていけない子が沢山出てくる」ということです。
これについての解決は「具体例を沢山やる」
という方法が一番良いと考えます。
「ゆっくり、焦らず、確実に」
成功の一番の近道です。

今、学校での現場では子どもたちはどの様に向き合っているのだろうか?
具象と抽象の狭間を。

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コメント

子どもたちの話、興味深いですねぇ~。そんでもって愛らしいこと。
でも、私がここで今書きたいのは子どもたちの話じゃないんです。大人たちの話。大人たちの具象と抽象の狭間の話。経済の話です。

今の世の中、大人たちこそが具象と抽象の狭間でもがき苦しんでいるのではないのか? 具象とは実際の財やサービス、抽象とは貨幣です。そして今の経済世界は抽象に支配されてしまっています。お金がなければ生きていけない、と皆、思い込んでしまっている。先日、NHKで「ライスショック」についての番組が放映されていましたが、いくらお金があってもモノが無ければ買えないのです。

レス違いの話で申し訳ありませんが、こんなことを言いたくなったのは、せとさんのお話が子どもが大人になっていく過程、つまり具象を捨てて抽象をに取り込まれていく姿がとても生き生き描かれていると思ったから。だから具象を捨てられない子どもがとても可愛い。

>りんごとみかんを合せたらいくつになるか、、、というよりはどんな味のジュースが出来るか?と悩むようです。

抽象に取り込まれた大人は、“どんな味が出来るか”と悩む子どもを“教育しなければ”と考えてしまいます。確かに教育は必要です。
しかし、もう一度考え直して見なければならないのは、大人の方ではないでしょうか? どんな味かで悩んでしまう心を失ったことを見つめ直すべきではないのでしょうか?

ウチの畑で取れた野菜と買ってきた野菜を食べ比べてみながら、そんなことを考えています。

投稿: 愚樵 | 2007.10.26 07:50

愚樵さん。
こんばんは。
コメントありがとうございます。

本当におっしゃるとおりです。
子どもたちの純粋な感性。
いつもハッとさせられます。
思わず笑ってしまったりと、ウウウ〜〜ンと唸ってしまったり。
教えられる事ばかりです。

ただね。愚樵さん。
ジュースの問題は国語ならOKなのですが算数として教えるときは、等質を見極めることを教えなければならないのですよね、、、
本当に難しい。
こちらが等質と思っても、子どもには「なぜ?」ってこと山ほどあります。
一方、図形とかトポロジーは子どもの方が優れていたりします。
教育ってなんなのでしょう???
考える事ばかり。
また愚樵さんの新鮮なご意見お聞かせください。
では、またね。

投稿: せとともこ | 2007.10.27 21:48

瀬戸さん、こんにちは。

この記事に触発されて
「割り算から見た量(1)――内包量と外延量」
http://okrchicagob.blog4.fc2.com/blog-entry-159.html
「割り算から見た量(2)――絶対量と相対量」
http://okrchicagob.blog4.fc2.com/blog-entry-160.html
という二つの記事を書いたのですがトラックバックが通らない(FC2ブログの不具合のようです)のでコメントで失礼します。

投稿: シカゴ・ブルース | 2007.10.30 14:49

シカゴ・ブルース さん。
お元気でしたか???
先日、マイナス×マイナス=プラス、、、は何故???
と、言うエントリーを書かれていらっしゃいましたが、
何回も拝見にさせていただいていました。

さて、コメント、トラックバックありがとうございました。
分数も子どもたちに教えるのは本当に難しい。
私は折り紙で教えています。
分子÷分母の意味とか相似とかとか、折り紙って優れた教材ですね。
タイルも二次元の広がりがあって分かりやすいですね。

また、いろいろお教えくださいね。
では、、、またね。

投稿: せとともこ | 2007.10.31 12:48

瀬戸さん、こんにちは。ご返事が遅れました。

「マイナス×マイナスはなぜプラスになるのか」は一年以上前に書いたものですが、ことばや概念に関する記事よりもアクセスが多いですね。それだけ不思議に思っている方が多いということでしょうか。

分数は小学3、4年の導入時に実物(1/3リットルの水など)とタイル図との対応関係を時間をかけて理解させるのが大事ですね。5年生の約分・倍分・通分もタイル図をつかってじっくりとやる必要があると思います。塾では学年の枠や指導要領を考える必要がありませんので6年生も復習から入ります。タイル図の意味をきちんと分かってからはじめて、タイル図によるかけ算・割り算のしくみを勉強するようにしています。

そのときにそのしくみが完全に理解できなくても天下り式にやり方を教えるわけではないので、時間が立って理解力が向上したときにあらためて自分で考え、理解することができたという生徒もいます。

教える方の心がまえとしていずれ大きくなったときに自分で納得できるときが来るという可能性をつねに意識して教えています。広い視野に立った一般的なとらえ方をできるだけ早い時期に与えておくのは自分の力で理解する子どもを育てるためにはとても有効なやり方だと私は(私自身の経験から)思っています。

折り紙は正方形なので分数の概念を身につけるにはよい教具ですね。長方形や正方形を折り曲げると相似(合同)な三角形がいろいろできるのでこれも面白く有効に使えると思います。

投稿: シカゴ・ブルース | 2007.11.03 19:40

シカゴ・ブルースさん。
こんにちは。
コメントありがとうございます。

そうですね。
「今は分からなくても、あるとき、すべて理解できる」
そんな時期が子どもに必ずあることを知っている私たち大人は、子どもたちに、その時期の来ることを期待しながら教えるときってありますね。
言葉で言うなら「今、わからなくても、いずれ分かるよ」と言う味も素っ気もない言い方になるのですが。

折り紙は連続量にも分離量にもなることが出来るので、私は積極的に使っています。
また、色もきれいなので子どもたちは喜びます。
些細なことですが「つかみ」って大事ですね。

と、言うことで、またいろいろ教えて下さいね。
では、、、また。

投稿: せとともこ | 2007.11.04 13:34

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