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2009.06.16

精密裁判から核心裁判へ

裁判員制度。
賛否両論があるなか、5月21日からスタートとなり、いよいよ本格的に私たちに裁判の現実が降り掛かってきます。
先日は足利事件について、ちょっと書いたのですが、
この事件が意味するものは、裁判員制度への大きな問題提起と言っても過言ではありません。
私もこの間、冤罪を不可避のものとしないために、
司法は如何にあるべきか、考えたり、本を読んだりしました。
証拠と自白。
そして情報の公開の範囲などなどについて、です。
と、言うことで、今日は「裁判の迅速化」は必要か、について考えてみます。

2001年の
司法制度改革審議会意見書ー21世紀の日本を支える司法制度ー
の、第2 刑事司法制度の改革に以下のように書かれています。
==============
1. 刑事裁判の充実・迅速化
(1) 新たな準備手続の創設
(2) 連日的開廷の確保等
(3) 直接主義・口頭主義の実質化(公判の活性化)
(4) 裁判所の訴訟指揮の実効性の確保
(5) 弁護体制等の整備
(6) その他(捜査・公判手続の合理化、効率化ないし重点化のために考えられる方策)
================

こうして司法の充実と併せて迅速化が求められて来ます。
これまでの日本の裁判は確かに長い。
長いです、、、
「さみだれ司法」「五月雨式」と言う名があるくらいポツンポツンと審理が行われていました。
この欠点を改正するために先の司法制度改革審議会意見書が出されました。
そして、これを受けて、
司法制度改革関連提出法案 には「裁判の迅速化に関する法律案」が盛りこまれ、2004年に成立します。
こうして、裁判は迅速、がスローガン(?)になっていきます。

では、迅速な裁判が本当に求められるものか否か、を検討するため、
裁判員裁判における審理のあり方についての提言案(討議資料) を読んでみました。
これは、副題に「-証拠調べのあり方を中心に 」とあり、日本弁護士連合会裁判員制度実施本部 が制作した資料です。
読んでいくうちに注目されたのは、
「精密司法」から「核心司法」への転換が、じつに裁判員制度導入により、うまく雲隠れしたということです。
「精密司法」とはWikipediaにもあるように造語です。
意味・用法としては「犯罪の態様・結果・動機等を細部にわたって解明し認定しようとする運用を指す。」と言うことです。
さらにWikipediaは続けます。
「日本の刑事訴訟においては、数十年にわたり、犯罪の態様、結果、動機、被害回復状況、被告人の家族環境、反省の度合いなど、詳細にわたって解明し、認定しようとする運用が行われており、これによって適切な量刑判断がなされるものと考えられてきた。「精密司法」という言葉は日本におけるかかる運用を肯定的にとらえる言葉として用いられてきた。」と。
つまり丁寧に裁判をすることで冤罪を少しでも回避しようというものです。

一方、核心司法は、名前の通り、核心だけを審議する、枝葉は切り捨て考量しないというものです。
そして、核心司法の拠り所は「自白調書」「供述調書」です。
一般の私たちを司法の現場に曝露させるため、
この調書を作るにあたり強制では無かったという証拠のために「取り調べ公開」なども検討しています。
確かに足利事件などをみると、警察のやり方をしっかりと見るために、捜査の一部始終を公開して欲しいとは思うのですが、
その行く先が、実は「裁判迅速化」のためであるとしたら、
それはそれで、「ちょっと待った」と考え込んでしまいます、、、


さて、裁判員制度が裁判迅速化に一躍かっていることの事例として、
「一般人をいつまでも裁判に拘束できない」というのがあります。
これまた、そうです。
私たちにとって、裁判員制度が重圧である理由として「量刑を決めること」と「時間の拘束」があります。
一般人を拘束させないために、裁判をスムーズに迅速に、2〜3日で決めよう、というのですが、
これは、本当にいいのだろうか???
冤罪回避、という大きな目的こそが、
裁判に一般人を参加させることなのだから、、、
その一般人を巻き込むことで、司法が簡潔になっていくことで「流れ作業」のように人が人を裁き、量刑を決めるシステムが出来上がるのでは、と私は危惧します。

丁寧に見いていくことで、
冤罪回避は勿論、今後の再発防止にも役立つものではないでしょうか?
はやければよい、と言う流れには、疑問を呈するものです。
この問題、今後も書いていきます。

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コメント

投稿: あゆ | 2009.06.17 09:23

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