室生犀星詩2篇
昨日いらしつて下さい 室生犀星
きのふ いらしつてください。
きのふの今ごろいらしつてください。
そして昨日(きのふ)の顔にお逢ひください。
わたくしは何時(いつ)も昨日の中にゐますから。
きのふのいまごろなら、あなたは何でもお出来になつた筈(はず)です。
けれども行停(ゆきどま)りになつたけふも
あすもあさつても
あなたにはもう何も用意してはございません。
どうぞ、きのふに逆戻りしてください。
きのふいらしつてください。
昨日へのみちはご存じの筈です、
昨日の中でどうどう廻りなさいませ。
その突き当りに立つてゐらつしやい。
突き当りが開くまで立つてゐてください。
威張れるものなら威張つて立つてください。
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「けふという日」
時計でも
十二時を打つときに
おしまいの鐘をよくきくと、
とても 大きく 打つ。
これがけふのおわかれなのね、
けふがもう帰って来ないために、
けふが地球の上にもうなくなり、
ほかの無くなった日にまぎれ込んで、
なんでもない日になって行く。
茫々何千年の歳月に連れこまれるのだ、
けふという日、
そんな日があったか知らと、
どんなにけふが華やかな日であっても、
人びとはそう言ってわすれて行く。
けふの去るのを停めることが出来ない、
けふ一日だけでも好く生きなければならない。
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今日は8月1日。
室生犀星は1889年8月1日生まれ。
と、言う事で犀星に因んで詩を2篇載せました。
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